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朝日新聞 2010年3月22日 web版




地方主導のダム、建設推進が8割 是非の検証進まず




 道府県が主体となって建設を進める「補助ダム」のうち、前原誠司国土交通相の要請を受け
入れ、建設の是非を再検証すると決めたのは、すでに建設中止を決めたものをのぞく55ダム
のうち、現時点で25ダムと、全体の半数以下にとどまることが朝日新聞社の調べでわかっ
た。再検証するダムも含め、全体の8割は「建設推進」が前提で、鳩山政権が掲げる「コンクリ
ートから人へ」の政策転換には地方からの抵抗が必至だ。





 昨年11月時点で58の補助ダムが本体工事に未着工だった。建設の継続・中止は道府県
が判断するため、昨年末に前原国交相は、今夏に国が示す新しい治水基準を当てはめ、継
続か中止かを決めるよう要請していた。





 計画する30道府県に国の要請への対応をダム別に尋ねたところ、大和沢(青森)、大多喜
(千葉)、武庫川(兵庫)の3ダムはすでに中止の方針が決まっていた。





 残る55ダムのうち、国の要請に応じると答えたのは、新潟(ダム数4)、長野、岐阜(3)、青
森、島根、高知(2)、山形、静岡、三重、滋賀、和歌山、広島、佐賀、大分、沖縄(1)の25ダ
ム。「国の方針だから」(山形)、「国と足並みをそろえる」(岐阜)との答えの一方で、「ダム事業
を進めるにはやむを得ない」(三重)、「補助金交付の前提条件であれば、応じざるを得ない」
(大分)といった理由が目立った。





 一方、他の25ダムについては、14道県が再検証に応じるか否か「未定」とし、うち9県は「新
たな基準を見てから決める」と回答した。「基準の内容が不明だから」との理由が大半を占め
た。 昨年末以降に本体工事に着工した4ダムについて、長野、兵庫、香川、熊本の各県は、
「再検証は実施しない」とした。いずれも2009年度中に本体工事に入る予定で、前原国交相
は着工を延期して再検証するよう求めていた。着工の理由を、長野県は「住民が参加した議
論を重ね、ダムが最善の方策との判断に至った」とし、香川県は「国の同意を得て事業を進
め、補助金の交付決定も受けている」と説明した。1ダムが再検証対象の大阪府は、国に先駆
けて独自に検証すると回答した。





 55ダムのうち44ダムは、計画する道府県が「このまま建設を進めたい」との考えだった。再
検証対象の補助ダムの計画が浮上した時期でみると、44ダムが20年以上経過していた。高
度成長期に計画され、完成の見通しもなく継続されているケースが目立つ。





 ダムをめぐっては、国と水資源機構が事業主体で、本体工事に未着工の31のダム事業は、
治水の新基準にあてはめる再検証作業が10年度に実施される。前原国交相は補助ダムに
ついて、道府県が再検証に応じない場合、補助額の減額などを示唆している。(天野剛志、歌
野清一郎)




ダム見直し進まぬ地方




朝日新聞社 2010年3月22日 関連記事





  「補助ダム」を抱える道府県の8割は、「このまま建設を推進したい」という立場だ。一方で、
国の要請に応じて建設の是非を見直す動きも出始めている。





 山口県長門市の山あいで進む大河内川ダム事業。県が調査を始めたのは1967年。地権者
の反対もあって今も本体工事は手つかずで、完成の見通しは立っていないが、県は推進の立
場だ。県がダム建設の根拠としているのが、長門市の治水と水道水の確保だ。しかし、地元で
は必要性に疑問の声が上がり始めている。





 南野京右・長門市長の諮問機関の行政改革懇話会は2月、「ダムをはじめとする大型公共
事業は、計画時の前提条件を検証し直し、真に必要な事業に絞るべきだ」と提言した。有馬勲
会長は「治水や水道は様々な改善が図られ、現状ではダムがなくても特に支障は出ていない」
と話す。


 しかし、県は「治水、利水上不可欠で、県の評価委員会でも継続と認められている」として、
建設推進の方針だ。





 香川県の小豆島では2月、内海ダムの本体工事が始まり、一帯の木が伐採された。昨年12
月に前原誠司国土交通相が現地を訪れて真鍋武紀知事に見直しを求めたが、その直後に県
は本体工事の契約を締結、工事を続行している。





 内海ダムは治水、利水の多目的だが、紅葉の名勝として知られる寒霞渓の真下にあり、住
民が「景観を壊し、目的も合理的な理由がない」などと事業の中止を求めて昨年6月に提訴し
ている。県内にはほかに椛川など3ダムの計画があるが、県はいずれも建設を推進する方針
で、国が求める検証への対応も未定だ。





 今回、国の要請に「応じる」と回答した15県も、「ダム建設を推進するため」との理由を掲げる
ケースが目立つ。「引き続き国の補助を得て事業を円滑に継続するため」(静岡)、「県単独の
予算では実施は困難だから」(沖縄)といった具合だ。島根県は「検証でダムの必要性を明ら
かにする」とし、事業推進は譲らない構えだ。





 一方、見直しに向けた動きもある。 


 滋賀県は「『ダムに頼らない治水』は県の方向性と同じ。検証にできるだけ協力する」と前向
きだ。昨年1月に独自にダムを中止した実績がある。大阪府は、橋本徹知事が「脱ダム方針
は歓迎」と表明。国交省が検証の対象外としている本体工事に着工した槙尾川ダムの見直し
に着手している。















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