4/18 地方ダム予算、削減1割 見直しに地方抵抗




朝日新聞 2010年4月18日 web版




地方ダム予算、削減1割のみ 国の見直しに抵抗




 道府県が進める補助ダムのうち、本体工事に未着工で見直し対象になっているダムは、今
年度予算の配分額が前年度比で1割しか削減できていないことが、朝日新聞社の調べでわか
った。本体未着工ダムは建設を見直すとの前原誠司国土交通相の方針に対する地方の抵抗
が、予算額で裏付けられた。





 補助ダムは道府県が事業主体だが、総事業費の半分を負担する国が毎年、予算の配分額
を決める。鳩山政権が今年度予算について、国費と地方負担分を含めた補助ダムへの配分
を決め、今年度にダム建設に投じられる国と地方の予算総額が固まった。





 補助ダムのうち、見直し対象は58事業。今年度予算額は計341億円で、前年度比で11%
(41億円)減だった。計36ダムで計90億円を削ったが、長野、兵庫、広島、香川、熊本の5
県は「政権交代前に認められている」などとして本体着工に踏み切ったため、計49億円増額
になったことが影響した。





 一方、国と水資源機構が進める国のダムで、見直し対象の31事業は、今年度の配分額は
計437億円。前年度比で42%(321億円)の大幅減。減額の最高額は、本体工事の着工を
前原国交相が中止した八ツ場(やんば)ダム(群馬県)の71億円だった。





 その結果、ダム建設費の総額は2643億円で、前年度から501億円(16%)減った。





 前原国交相は今夏、再検証のための治水の新基準を示し、各地で個別ダムの検証作業を
始める考え。補助ダムについても、道府県に対し、新基準をあてはめて継続か中止かを決め
るよう要請。応じない場合は予算補助額の減額を示唆していた。





 しかし、朝日新聞の取材に対し、道府県が「再検証をする」と答えたのはダム別で見て半数
以下で、8割は「建設を推進する」との立場だった。





 見直し対象の89のダム事業をすべて完成させるには、2兆5千億円前後が必要だ。





(歌野清一郎、天野剛志)










「ダム削らせぬ」地方の乱 




朝日新聞 2010年4月18日 朝刊関連記事




 「コンクリートから人へ」を掲げ、ダム建設の全面見直しを進める前原誠司国土交通相だが、
新年度予算で削減できたダムの事業費は全体で前年度比16%にとどまった。補助ダムを求
める道府県の抵抗を抑えきれなかったことが影響した。ダム見直しの前提になる新しい治水
基準づくりも、先行きが不透明だ。





香川県知事「国に負担拒む裁量の余地なし」 


法を盾に「満額」





 「満額をいただき、感謝している」。香川県の真鍋武紀知事は先月29日、国の新年度予算配
分額の公表を受けて、こう語った。





 県が小豆島で進める内海ダムは、前年度8億3千万円から4倍増の32億6千万円が要求通
りに認められた。治水、利水を目的にした補助ダムで、名勝・寒霞渓の景観を壊すとして反対
する地元住民もいる。前原誠司国交相は反対派の住民グループ代表と意見交換し、真鍋知
事に直接、見直しを要請した。





 だが、真鍋知事は法律を盾に「国に負担を拒む裁量の余地はない」と応じなかった。





 河川法は、国のダム建設費の一部を受益地の都道府県に負担させる代わりに、国も半分を
補助すると定める。これまで国は、この規定を盾に都道府県に建設費を負担させてきたが、真
鍋知事はこの規定を逆手に取り、内海ダムは自公政権時代に本体着工が認められている以
上、国は負担を拒めないと主張したのだ。





 国交省内で法解釈の検討を重ねた末、前原国交相は先月、内海ダムなど5県の5ダムにつ
いて、前政権が認めていた本体着工を受け入れ、再検証の対象から外した。前原国交相は
「補助金交付を見送った場合に国の裁量権の逸脱になるおそれがある」との判断を強調した。





 一方、内海ダムの中止を求めて国を提訴している住民グループ代理人の兼光弘幸弁護士
は、「国が補助金を出さなくてはいけないのは、事業に合理性があることが大前提だ。合理性
が問われている段階で予算配分を認めるとは、全くの期待外れだ」と憤る。





 「将来の大洪水に備えるため」「長年、住民と積み上げてきた経緯がある」―。


 ダム推進を掲げる道府県は建設続行の理由をこう説明する。公共事業の削減が続く中で、
ダム事業は地方にとって、億単位で発注できる数少ない景気対策の側面もある。








カネ減っても「もうすぐ完成 影響なし」


「前原方針」骨抜きに





 予算が大きく減ったダムも、前原国交相の新方針の成果とは言えないものが多い。





 福岡県の五ケ山ダムは水没する道路の付け替え工事が進む。09年度の69億円が新年度は
50億円に減り、減額幅は全国で最大だ。とはいえ、用地買収がピークを過ぎたためで、要求額
そのものが前年度比9億円減だった。新年度は付け替え工事費の一部も削られたが、県の担
当者は「直ちに全体の工期に影響するほどではない」という。





 減額幅が14億円で2位の山口県の平瀬ダムも、付け替え道路の工事の大半が終わったこと
を理由に、要求はやはり10億円減っていた。





 しかし、すでに着手している工事は継続が認められているため、秋田県の成瀬ダムでは事業
費が5億円増えた。転流工は、ダムが中止になれば無用になるため、「成瀬ダムをストップさ
せる会」の熊沢文男さん(80)は「工事継続は全くおかしい」と訴える。





 今後、ダム建設がどうなるかは、今夏にも示される予定の新しい国の治水基準で実施される
再検証の結果次第だ。





 各地のダムを建設する根拠となっているのが、洪水のピーク時に想定される流量(基本高水)
だ。洪水の規模を大きくすればするほど、ダムが必要になる。


 


 例えば利根川では、八ツ場ダム(群馬県)を完成させても、国の想定する「200年に1度」の洪
水には対応できず、さらに新たなダムを5,6カ所は造る必要がある。前原国交相は昨年10
月、「ダムを造り続ける仕組みを変えていく」と宣言。「今後の治水のあり方に関する有識者会
議」を発足させ、新基準づくりに着手した。





 河川工学や森林科学、災害心理学など委員9人がメンバーの有識者会議は3月末、再検証
の基準の「たたき台」を示した。各ダムで、ダム以外の複数の治水対策案を立案した上で @
達成できる安全度 A完成までにかかる費用 B土地所有者の協力など実現性があるか、と
いった指標で比較していく作業を想定している。





 しかし、比較の大前提となる洪水の規模は、これまで国が想定してきた規模のままだ。この
まま再検証すれば、「ダムが最も合理的な手法」との結論が相次ぐ可能性もある。





(歌野清一郎、天野剛志)














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