4/5 「自然を守れ」闘う住民 島が生き残る道を模索




南海日日新聞(奄美) 2010年4月5日 




「自然を守れ」闘う住民 島が生き残る道を模索




 「奄美に似た島があるよ」―。友人からそんな誘いを受け、瀬戸内海に浮かぶ香川県の小豆
島を訪れた。面積約153平方q、人口3万人余り。同島出身の作家、壷井栄が美しい島の自
然を背景に、反戦、平和の思いを込めて書いた名作「二十四の瞳」を生んだ島である。のどか
な田舎の風景の残る島は今、ダム建設計画で揺れている。同じ離島の問題として考えてみた
い。





 問題となっているのは、小豆島町の別当川にある内海ダムの再開発事業だ。長年、地元住
民が要望していた同ダムの改修工事は11年前、総事業費約185億円、現ダムの7.5倍となる貯
水量106万トンの大規模な新ダム建設計画となって返ってきた。





 内海ダムは日本3大渓谷の1つである寒霞渓の真下にあり、ダムから100メートル先には3
千人の住民が暮らす集落がある。十年来、同計画を進める県、町と反対する地元住民との対
立が続いている。





 県、町は治水、利水対策を掲げて新ダムの必要性を強調。仮に河川改修だけで対応する
と、新ダム建設より10数億円の費用が掛かる―としている。





 「大きなダムができれば安心。周辺の活性化にもつながる」と喜ぶ声がある一方、計画に反
対する住民らは「巨大なダムを造らなければならないほどの問題はなく、ほぼ河川改修で対応
できる。予定地には断層があり、巨大ダムを造ることで災害を誘発する恐れも。直下の島民の
命を脅かす上、島の景観を台無しにする」などと訴えている。





 計画の再考を促す大規模集会や国、県への要望書、署名提出、デモ行進などが行われる
中、県は2月、新ダム建設に着手した。反対派地権者らが所有する未買収の用地が残ってい
るが、「いずれ強制収用に向かう」とみられている。





 工事が進む中、島民による「島を守る闘い」の火はまだ消えていない。先日、反対派が主導
する「小豆島の現在と未来を考える会」をのぞいた。当初から反対運動を続ける櫛本イトヱさ
ん(91)は、行政や推進派の住民から数々の嫌がらせを受けながらも、意思を貫いてきた経緯
を語り、「誰かが声を挙げたら、目を光らせ、締め付ける人がいる。みんながおびえて声を出
せないでいる。島が変わらない第一の要因」と声を震わせた。





 山西克明さん(71)は「今の島はまるで工事現場。公共工事による環境破壊、人口減少に伴う
陸上、海上交通の減などで無人島への道を進んでいる。はげ山になり、自然がなくなり、見る
人が来なくなれば島に何が残るのか」と訴えた。





 集会ではダム問題にとどまらず、医療、交通、雇用など、島が抱えるさまざまな問題への不
安も聞かれた。島はどこに向かえばいいのか。変えなければいけないもの、変えてはいけない
ものは何か。一人一人がダム問題を機に、島が生き残る道を模索していた。





 「未来の島、島の子どもたちのために、島の自然を残したい」と櫛本さん。島のため、島民の
ためを思う事業であるならば、島への利益、不利益となる情報を共有し、両者が納得するまで
議論を尽くすことはできなかったのか。これまで、そしてこれからも島で生きていく島民の声を、
決して無視してはならないと思った。





(榮 麻紀子)












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