検証・真鍋県政12年 2010知事選を前に 読売新聞社 web版 <上>“四国の玄関口”苦戦 県施設経費 赤字年5億円
高松市の高松シンボルタワー内のかがわ国際会議場に6日午後1時、都市工学や景観デザ
インの専門家ら10人が集まった。サンポートの活性化策を考えるためこの日発足した「サンポ ート高松北側街区利活用検討委員会」の初会合。県政策課の榎本典昭課長(54)は「サンポ ート内のイベント施設の利用率は下がってきている。活性化に向けて協議をお願いします」と 述べた。 ◇
JR高松駅や高松港があるサンポート高松の整備計画が発表されたのは1992年4月。「交
通拠点」、「新生高松の情報拠点」などを目指した。バブル期の余勢をかって、水族館や美術 館の建設などのアイデアが次々と提案され、<四国の玄関口>としての都市未来像が描かれ た。だが、バブル崩壊で、それらの案はすぐに立ち消えた。 それでも98年9月の真鍋知事就任の直後に埋め立てが完了。シンボルタワーや高松港旅
客ターミナルなどが建設され、2004年3月にグランドオープンした。 ◇
だが景気低迷が長引き、タワーは“低空飛行”が続く。開業直後の04年度には425万人だ
った来場者が05年度には269万人に激減。09年度も215万人となかなか回復できない。テ ナントから退去した物販業の男性社長は「海が見え、美術館のように素晴らしい建物だが、駅 からの人の流れができていない。駐車場も有料で、ショッピングのロケーションとしては厳しい」 という。1階展示場の稼働率は04年度の65・8%から、09年度は38・4%に落ち込んだ。 県有施設では、08年度の県の収入が使用料や手数料など約1億1300万円に対し、人件
費や光熱費など経費は約6億1400万円。年間約5億円の赤字は、県が毎年、一般会計で補 填(ほてん)している。 ◇
“苦戦”するのは施設だけではない。商業施設などの立地を目指して整備した北側街区の2・
77ヘクタールは、まだ分譲もされていない。県は、同街区とは別にサンポート内に持つ0・5ヘ クタールを01年以降3回売りに出したが、買い手がつかない。県の担当者は「ここが売れなけ れば、北側街区の分譲は無理」とこぼす。 埋め立てに県が支出した事業費なども、すべては回収できておらず、一般会計や新たな県
債発行で穴埋めしているのが現状だ。 「今は陸の孤島になっている」、「開発コンセプトを改めて見て、市民目線が足りない」。6日
の利活用検討委でも委員から厳しい意見が相次いだ。委員会は来秋までに新たな整備計画 を考えるという。<四国の玄関口>の再生は、次の知事の手に委ねられる。 (2010年8月7日 読売新聞)
<中>バブル崩壊 県民にツケ 行革実施も県債過去最大
小学生の長男と2人で暮らす琴平町内の30歳代女性は、2008年8月から県が母子家庭へ
の医療費助成を一部削減したことが心配だ。負担増はひと月当たり外来500円、入院1000 円。女性が飲食店などのパートを掛け持ちして得る収入は年300万円弱。わずかでも蓄えた い。「なぜ過去の無駄遣いのツケを私たちが払うのか」。全額助成だった母子家庭と重度心身 障害者の医療費の一部自己負担は、07年11月に県が策定した「新たな財政再建方策」に盛 り込まれた。 ◇
財政難の発端は、前知事時代の1990年代半ばに相次いだ大型建設事業にある。歴史博
物館(192億円)、丸亀競技場(191億円)、県民ホール・小ホール(153億円)――。真鍋知 事が年度途中で就任した98年度の一般会計決算の歳出総額は5541億円と過去最大にな った。 当時は県税収入も右肩上がりだった。だが、バブル経済の崩壊とその後の景気低迷が影響
し、00年度に1187億円あった県税収入はその後減少。地方交付税も三位一体改革で04年 度から大幅に削減された。90年代の事業の償還も始まると、財政は一気に悪化した。04年 度決算では、貯金にあたる基金残高が70億円まで減ったのに対し、借金にあたる県債残高 はその100倍を超える7190億円となった。 ◇
財政危機からの脱出のため県が策定したのが、05〜07年度と08〜10年度の2度にわた
る財政再建方策だ。 公共事業などに充てる普通建設事業費をピークだった96年度の1812億円から、10年度
には485億円まで削減。96年度には3689人いた知事部局の職員も10年度には2779人 まで減らし、全国で最も少なくした。一般職員の給与も01年度以降、5〜3%カットしてきた。 行財政改革で98年度は5541億円だった歳出は、10年度には4312億円にまで抑制し
た。景気が一時上向き、07年度には県税収入も1312億円に増えた。だが、リーマンショック で再び減少に転じ、10年度当初予算案では991億円に落ち込む見込みだ。 ◇
「県財政は今、未曽有の危機的状況にある。私は事業に聖域を設けず、経費全般を抜本的
に見直そうと思う」。07年9月、真鍋知事は2度目の行財政改革に着手する際、自ら館内放送 で決意を訴えた。 「最も踏み込みにくいが、必要だった」と、社会福祉の削減に踏み込んだ真鍋知事の行革を
評価する声は県議会にもある。だが、就任時に5637億円だった県債残高は、今年度当初見 込みで8246億円と過去最大。国が将来、全額を補填(ほてん)する臨時財政対策債を除いて も5752億円。残高を減らすという財政再建方策の目標は達成できず、地方交付税頼みの県 財政を転換させることはできなかった。 今年度一般会計当初予算ベースで、今年度末での県債残高の見込みは8246億円。歳入
見込み4312億円の1・9倍に上る。県民1人あたり約81万円の借金を抱える計算だ。県税 収入の劇的な伸びが期待できない中、今後も県民に痛みが伴う改革が続くのか。新しい知事 には行財政改革の新たな指針づくりが求められる。 (2010年8月10日 読売新聞)
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