8/10 「安全」「景観」揺れるダム事業




毎日新聞社 2010年8月10日 web版




新リーダーへ:知事選の課題/中 「安全」「景観」揺れるダム事業 /香川





 ◇納得できる地元合意を





 豊かな緑に包まれた深い渓谷。向こうに穏やかな瀬戸内海が広がる。日本三大渓谷美の一
つ、小豆島の寒霞渓。展望台から見下ろせる位置に、県と小豆島町が進める新内海ダム(小
豆島町)本体工事の現場がある。





 ダム堤が通る予定の丘を、削るブルドーザー。寒霞渓の景観保全などを訴え、反対派住民
の中心となってきた山西克明さん(71)は「自分の体が削り取られるようだ」とうめいた。山西さ
んらは6月、工事現場近くに「団結小屋」を建てた。畳3畳ほどの小さなプレハブの壁一面に、
運動の経緯などを説明するパネルをはる。新ダムが完成すれば水の下に沈む場所だ。「最後
はここで体を張る」。山西さんは、11月に迫る土地の強制収用を見据えていう。





 一方、自治会代表者らがつくる内海ダム対策協議会の会長として、新ダム建設を推進してき
た大川新也・同町議(56)。「放流のサイレンが鳴るたびに不安になる日々から早く解放された
い」と、川沿いに立つ赤色灯を見上げた。洪水調節容量が少ないため、少しの降雨で満水に
なり放流するという現在のダム。「ゲリラ豪雨や集中豪雨に耐えられるのか。安全で大きなダ
ムを一日も早く完成させてほしい。それが住民の大半の思いだ」と強調した。





 新ダムは13年度の完成を目指す。えん堤は423メートル、総貯水量は現在の7・5倍の10
6万トン。総事業費は185億円で、半分程度を国が負担する「補助ダム」だ。





 民主政権が誕生し、全国でダム事業見直しが求められたが、県は昨年12月に本体工事を
契約。3月末、国の見直し検証対象からの除外と、補助金の交付が決まった。先月末には県
収用委員会が、反対派地権者の土地(全体の約3%)の強制収用を認めた。





 反対派は国や県などを相手取り、事業認定取り消しや公金支出差し止めを求める住民訴訟
を起こし、4件が係争中。治水、利水のためダムは必要と主張する行政側と、その両面で不要
で、寒霞渓の景観を悪化させるとする反対派。両者に折り合いがつかないまま、工事は着々と
進む。





 県内にはほかに、椛川(かばかわ)ダム(高松市)と五名ダム再開発(東かがわ市)、綾川ダ
ム群(綾川町)の三つの補助ダム事業がある。県はこの3事業については、国の新基準による
見直しに応じる方針を示している。国交省の有識者会議は先月、必ずダムなしの代替治水策
と比較し、コスト最重視で判断することを柱とする検証方法案をまとめた。





 同案の下では、県は関係自治体と検討の場を作り、プロセスを公開しなければならない。住
民や学識者からの意見を聴くことも必要とされる。県河川砂防課は「事業を進めるにしろ中止
にするにしろ、結論を早く出さなければ再来年度の予算に反映できない」。先行きは不透明
だ。





 地域の実情にあった治水、利水策を、いかに住民らと情報共有し、合意形成を図っていくの
か。新内海ダムと同じ道を歩まない努力が求められている。【中村好見】

















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